データベースパフォーマンスとデータ整合性のジレンマ:PostgreSQLとMariaDBにおけるトランザクション分離レベル徹底解説

2024-07-27

PostgreSQLとMariaDBにおけるトランザクション分離レベルの違い:InnoDBストレージエンジンに焦点を当てて

PostgreSQLとMariaDBは、どちらもオープンソースで人気のある関係データベース管理システム(RDBMS)ですが、トランザクション分離レベルの扱い方において重要な違いがあります。特に、InnoDBストレージエンジンを使用する場合、この違いが顕著になります。

本記事では、プログラミング初心者向けに、以下の点に焦点を当てながら、PostgreSQLとMariaDBにおけるトランザクション分離レベルの概念と違いを分かりやすく解説します。

  • トランザクションと分離レベルとは何か
  • PostgreSQLとMariaDBにおける4つの標準分離レベル
  • InnoDBストレージエンジンにおける分離レベルの動作
  • 各分離レベルにおける注意点とトレードオフ
  • アプリケーションにおける適切な分離レベルの選択

トランザクションと分離レベル

トランザクションとは、データベースに対して一連の操作を原子的に実行する論理単位です。たとえ複数のトランザクションが並行して実行されても、それぞれが独立して実行されたかのように振る舞うことが保証されます。

トランザクション分離レベルは、複数のトランザクションが同時にデータにアクセスする場合に、どのようなレベルで干渉を許容するかを定義します。分離レベルが高ければ高いほど、干渉を防ぐことができますが、その分パフォーマンスが低下する可能性があります。

PostgreSQLとMariaDBは、以下の4つの標準トランザクション分離レベルをサポートしています。

  1. READ UNCOMMITTED (読み込み非コミット): 未コミットのトランザクションによる変更も含めて、すべてのデータを読み取ることができます。しかし、コミットされていない変更が原因で読み込みに矛盾が生じる可能性があります。
  2. READ COMMITTED (読み込みコミット済み): コミットされたトランザクションによる変更のみを読み取ることができます。しかし、読み込み中に他のトランザクションがコミットされると、読み込んだデータが更新される可能性があります。
  3. REPEATABLE READ (繰り返し可能読み込み): トランザクション開始時点のデータスナップショットを読み取ることができます。他のトランザクションがコミットされても、読み込んだデータは更新されません。ただし、ファントムリードが発生する可能性があります(詳細は後述)。
  4. SERIALIZABLE (シリアライザブル): 各トランザクションが直列に実行されたかのように動作します。最も高い分離レベルですが、パフォーマンスへの影響も大きくなります。

InnoDBストレージエンジンは、PostgreSQLとMariaDBで広く使用されているデフォルトのストレージエンジンです。InnoDBでは、以下の点に注意する必要があります。

  • READ UNCOMMITTED: ロックを使用しないため、他のトランザクションによる変更の影響を受けやすく、データの整合性が損なわれる可能性があります。
  • READ COMMITTED: マルチバージョンコンカレンシー(MVCC)を使用して、コミット済みトランザクションによる変更のみを読み取ります。ファントムリードは発生しません。
  • REPEATABLE READ: MVCCに加え、行ロックを使用して、トランザクション開始時点のデータを読み込みます。ファントムリードは発生しません。
  • SERIALIZABLE: 行ロックを使用して、各トランザクションを直列に実行します。

各分離レベルには、それぞれ利点と欠点があります。

READ UNCOMMITTED:

  • 利点: 読み込みパフォーマンスが最も速い
  • 欠点: データ整合性の問題が発生する可能性がある
  • 利点: データ整合性を保証しつつ、比較的高い読み込みパフォーマンスを実現
  • 欠点: 読み込み中に他のトランザクションがコミットされると、読み込んだデータが更新される可能性がある

REPEATABLE READ:

  • 利点: ファントムリードを防ぎ、高いデータ整合性を保証
  • 欠点: 書き込みパフォーマンスが低下する可能性がある

SERIALIZABLE:

  • 利点: 最も高いデータ整合性を保証
  • 欠点: パフォーマンスが著しく低下する

適切な分離レベルは、アプリケーションの要件によって異なります。一般的には、以下の点を考慮して選択します。

  • データ整合性の重要度: データ整合性が極めて重要であれば、REPEATABLE READまたはSERIALIZABLEを選択する必要があります。
  • 読み書きの頻度: 読み込み操作が多い場合は、READ COMMITTEDまたはREPEATABLE READを選択することで、パフォーマンスと整合性のバランスを図ることができます。
  • **同時実行性の



2人のユーザー、AliceとBobが、銀行口座の残高を確認し、それぞれ100ドルずつ引き出すというシナリオを考えてみましょう。AliceとBobの操作は並行して実行されます。

テーブル:

CREATE TABLE accounts (
  account_id INT PRIMARY KEY,
  balance INT NOT NULL
);

初期データ:

INSERT INTO accounts (account_id, balance) VALUES (1, 1000);

PostgreSQLでの例:

REPEATABLE READ を使用する場合

-- Aliceの操作開始
BEGIN TRANSACTION;
SELECT balance FROM accounts WHERE account_id = 1;
UPDATE accounts SET balance = balance - 100 WHERE account_id = 1;
-- 他のトランザクションの影響を確認するために少し待つ
SELECT pg_sleep(2);
-- Bobの操作の影響を確認
SELECT balance FROM accounts WHERE account_id = 1;
COMMIT;

READ COMMITTED を使用する場合

-- Aliceの操作開始
BEGIN TRANSACTION;
SELECT balance FROM accounts WHERE account_id = 1;
UPDATE accounts SET balance = balance - 100 WHERE account_id = 1;
COMMIT;

MariaDBでの例:

-- Aliceの操作開始
START TRANSACTION;
SELECT balance FROM accounts WHERE account_id = 1;
UPDATE accounts SET balance = balance - 100 WHERE account_id = 1;
-- 他のトランザクションの影響を確認するために少し待つ
SELECT SLEEP(2);
-- Bobの操作の影響を確認
SELECT balance FROM accounts WHERE account_id = 1;
COMMIT;
-- Aliceの操作開始
START TRANSACTION;
SELECT balance FROM accounts WHERE account_id = 1;
UPDATE accounts SET balance = balance - 100 WHERE account_id = 1;
COMMIT;

結果:

  • PostgreSQL (REPEATABLE READ): Aliceは、Bobの引き出しの影響を受けずに、1000ドルから100ドルを引くことができます。
  • PostgreSQL (READ COMMITTED): Aliceは、Bobの引き出しの影響を受ける可能性があります。Bobが先にコミットした場合、Aliceの引き出し残高は900ドルではなく、800ドルになる可能性があります。
  • MariaDB (REPEATABLE READ): MariaDBの REPEATABLE READ は、PostgreSQLとは異なり、ファントムリードが発生する可能性があります。Bobがコミットする前にAliceがトランザクションを開始した場合、Aliceは古い残高(1000ドル)に基づいて引き出し操作を実行する可能性があります。コミット時に残高不足エラーが発生する可能性があります。
  • MariaDB (READ COMMITTED): MariaDBの READ COMMITTED は、PostgreSQLと同じように動作します。

考察:

この例では、各分離レベルにおけるトランザクションの動作の違いを理解することができます。

  • REPEATABLE READ: 読み込み操作において高いデータ整合性を保証したい場合に適しています。しかし、ファントムリードが発生する可能性や、MariaDBではロックの影響によるパフォーマンス低下が発生する可能性がある点に注意が必要です。
  • READ COMMITTED: データ整合性とパフォーマンスのバランスを考慮する必要がある場合に適しています。しかし、読み込み中に他のトランザクションがコミットされると、読み込んだデータが更新される可能性がある点に注意が必要です。
  • READ UNCOMMITTED: 読み込みパフォーマンスを最優先する場合にのみ使用検討すべきです。データ整合性の問題が発生する可能性が高いため、本番環境での使用は避けるべきです。
  • SERIALIZABLE: 最も高いデータ整合性を必要とする場合にのみ使用すべきです。しかし、パフォーマンスが著しく低下するため、使用には注意が必要です。

適切な分離レベルを選択することは、アプリケーションのパフォーマンスとデータ整合性のバランスを保つために重要です。各分離レベルの特徴を理解し、アプリケーションの要件に合わせて適切な分離レベルを選択してください。

  • 上記のコードはあくまで例であり、実際のアプリケーションでは状況に応じて適切なロック機構やエラー処理を追加する必要があります。



  • 行ロック: 特定の行へのアクセスを排他制御します。REPEATABLE READおよびSERIALIZABLEで使用されます。
  • MVCC: マルチバージョンコンカレンシーと呼ばれる技術を使用して、コミットされていない変更も含めてすべてのデータバージョンを保持します。READ COMMITTEDで使用されます。
  • 無ロック: ロックを使用しません。READ UNCOMMITTEDで使用されます。

ファントムリード

ファントムリードとは、トランザクションが開始された後に別のトランザクションによって挿入されたデータを読み込んでしまう現象です。REPEATABLE READ分離レベルで発生する可能性があります。

  • コミットタイミング: トランザクションのコミットタイミングは、分離レベルに影響を与える可能性があります。例えば、READ COMMITTEDでは、読み込み操作が完了する前に他のトランザクションがコミットされると、読み込んだデータが更新される可能性があります。
  • 死ロック: 複数のトランザクションが互いにロックを待機し、どちらも先に進めなくなる状態を死ロックといいます。分離レベルによっては、死ロックが発生しやすくなる場合があります。

transactions mariadb innodb



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